
「来期は何人採用しますか」。経営会議でそう聞かれたとき、去年と同じ数字を答えていないでしょうか。人数の根拠があいまいなまま募集を始めると、期の途中で足りなくなるか、逆に採りすぎて配属先に困るか、どちらかが起きます。
この記事では、来期の必要採用人数を退職見込みと増員から出し、そこから必要な応募数まで数字でつなぐ手順を扱います。自社の選考通過率をどこから取り出すか、それがまだ無い会社は何を代わりに置けばよいかまで、明日の採用会議で使える形で書きます。
採用人数を「勘」で決めると起きること
採用計画が前年踏襲になっている会社には、共通する症状があります。期の後半に急な欠員が出て慌てて募集する、年度末に採用予定数が埋まらないまま活動を終える、掲載開始が遅れて他社が採り終わったあとの市場で戦う。いずれも人数の出し方が悪いのではなく、人数を出していないことが原因です。
計画未達は珍しくありません。インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター『就職白書2026』の企業調査では、2026年卒で採用予定数を充足できた企業は44.2%、従業員300人未満では40.5%でした。計画より少なかった理由は、300人未満では「選考応募者が予定より少なかった」が77.4%です。中小企業のつまずきは入口側に多いと分かります。
今日その場でできることは1つです。過去2期分について、期初に立てた採用予定数、実際に入社した人数、その求人に集まった応募の総数の3つを紙に書き出してください。
予定数と入社数の差が大きいほど、計画側を作り直す価値があります。ひとつの目安として、差が予定数の2割を超えるなら、来期は勘ではなく式で出したほうが早く着地します。応募総数を書けなかったなら、そもそも記録が残っていません。
来期に必要な採用人数を出す
必要採用人数は2つの足し算で出ます。式にすると「必要採用人数=増員数+期中に退職する見込み人数」です。増員数は事業計画から決まります。来期の売上計画や新拠点の予定に対し、期末時点で何人ほしいかを部門ごとに置き、期初の在籍数を引いてください。
もう一方の退職見込みは、多くの会社が省略してしまいます。ここを0で置くと、計画は必ず不足します。第一候補は自社の実績です。過去3期の退職者数をそれぞれの期初在籍数で割り、平均を取ってください。
自社の人数が少なく、年によって数字が跳ねる場合は公的統計を仮置きします。厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、令和6年の離職率は一般労働者が11.5%、パートタイム労働者が21.4%でした。雇用形態を混ぜると計算が狂うことが、この差から分かります。
| 産業(一般労働者) | 離職率 | 期初20人なら年間の退職見込み |
|---|---|---|
| 産業計 | 11.5% | 約2.3人 |
| 製造業 | 8.8% | 約1.8人 |
| 卸売業,小売業 | 10.7% | 約2.1人 |
| 医療,福祉 | 13.1% | 約2.6人 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 18.1% | 約3.6人 |
新卒を採るなら、もう1つ見る数字があります。厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」では、大学卒の3年以内離職率は33.8%、事業所規模30〜99人では41.9%、100〜499人では33.9%で、規模が小さいほど高くなります。なお、退職見込みそのものを下げる打ち手は本記事の範囲外で、別記事「人材の離職防止に効く適性検査の選び方」で扱います。入社した人の特性を配属やマネジメントに引き継ぐ用途では、当社のTekiLens(適レンズ)の検査結果も材料になります。
選考通過率から必要な応募数を計算する
採用人数が決まったら、選考の各段階の通過率で割り戻します。式は「必要応募数=必要採用人数÷(書類通過率×面接通過率×内定承諾率)」です。段階は3つか4つに丸めてください。一次・二次・最終と細かく分けるほど各段の誤差が掛け算で膨らみ、出てきた応募数の意味が薄くなります。
例を出します。来期3人採用したい会社で、書類通過率40%、面接から内定までが30%、内定承諾率80%だとします。掛け合わせると0.4×0.3×0.8=0.096で、応募100件から9.6人が入社する計算になります。3÷0.096=31.25なので、必要応募数は32件です。
つまずきやすいのは内定承諾率です。インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター『就職白書2026』の企業調査では、採用予定数を100としたときの内定出し人数が177.0、内定辞退人数が87.0でした(2026年卒・全体)。予定の1.8倍近く内定を出して、ようやく計画に近づく水準です。新卒の調査なので中途採用では水準が異なりますが、承諾率を100%で置くと最後の一段で崩れる点は同じです。
計算の前に、社内で3つの定義を揃えてください。「応募」を何時点で数えるか(応募ボタンの押下時点か、連絡がついた時点か)、同一人物が複数の求人に応募したら1件と数えるか複数と数えるか、集計の区切りを応募月と入社月のどちらに置くか。この3つがずれていると、期末に実績と突き合わせても数字が合いません。
自社の通過率が分からないときの代用値
採用管理システムを入れていない会社でも、通過率はたいてい復元できます。直近12か月をさかのぼり、次の5か所を数えてください。件数が少なければ24か月に広げます。
| ファネルの段 | どこから数えるか | 数えるときの注意 |
|---|---|---|
| 応募数 | 求人媒体の管理画面の応募一覧 | 連絡がつかない応募も別に記録 |
| 書類通過数 | 面接日程を打診したメールの送信数 | 日程が合わず流れた人も含める |
| 面接実施数 | カレンダーに残る面接予定 | 当日欠席は除く |
| 内定数 | 内定通知メールの送信数 | 口頭だけの内定は漏れやすい |
| 入社数 | 入社手続き書類の受領件数 | 内定後の辞退は別に記録 |
件数が少ないときの決めごとも要ります。分母が30件を下回るなら、通過率は整数に丸めてください。応募12件のうち5件通過を「41.7%」と書くと精度があるように見えますが、1件増減で8ポイント動きます。「約40%」と置くほうが判断を誤りません。
自社データがまったくない初回は、平均値を1つ置くのではなく強気と弱気の2通りで計算します。書類通過率を30%と50%の両方で必要応募数を出し、募集は多いほうに合わせて設計します。1周終わったら必ず自社の実績で上書きしてください。
どんな人に来てほしいかを決める作業は別に必要です。別記事「採用ペルソナ設計を適性検査の数値に落とし込む」で扱います。書類の通過ラインの置き方も、ここでは触れません。
応募数を月に割り、募集開始月を決める
年間の必要応募数が出たら、次は時期です。年32件という数字は、そのままでは動かせません。手順は3つあります。部門ごとに何月に入社していてほしいかを書き出し、応募から入社までのリードタイムを月数で置き、入社希望月からリードタイム分さかのぼった月を募集開始月にします。
リードタイムは、書類回答までの日数、面接日程の調整期間、選考期間、内定から入社までの期間を足したものです。中途採用では最後の区間が長くなりがちで、在職中の候補者は退職交渉と引き継ぎを終えるまで入社できません。ここを甘く見ると、入社月が四半期単位でずれます。推測で置かず、直近の入社者について応募日と入社日の差を数えてください。
月に割ると、1か月あたりに必要な応募件数が出ます。年32件を通年で採るなら月3件弱ですが、4月と10月に集中させるなら直前2か月に十数件が要ります。現実的でない月が出たら、入社月をずらすか採用人数の内訳を見直します。応募が集まらないときは、まずこちらの記事で表示・クリック・応募のどこで止まっているかを特定してください。求人票の直し方は仕事内容の書き方の記事で扱っています。
なお、リードタイムは候補者の待ち時間でもあります。選考が長引くほど、応募した人が結果を待つ期間も延びます。面接の回数を増やさずに確認の精度を上げたい場合、当社のTekiLensは候補者の特性と職務要件のギャップを可視化し、面接で確認したい点を示します。
よくある質問
来期は事業を縮小する予定です。採用人数はゼロでよいでしょうか。
増員数が0でも、退職見込み分の欠員補充は残ります。期初在籍数に離職率を掛けた人数を出したうえで、補充するのか業務量を減らして吸収するのかを決めてください。先送りにすると、退職が出た月に急募することになります。
パート・アルバイトも同じ式で計算してよいですか。
式は同じですが、通過率と退職見込みは分けて計算してください。厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、離職率は一般労働者11.5%に対しパートタイム労働者21.4%と倍近い差があります。合算すると、どちらの計画も実態から外れます。
通過率を上げれば、必要な応募数は減らせるのではないでしょうか。
計画段階では、通過率は「これから動かす目標」ではなく「過去の実績値」として扱ってください。目標値で割り戻すと必要応募数が小さく出て、募集量が足りなくなります。改善は改善で進めつつ、計画は実績値で立てるのが安全です。
計算したら必要応募数が数百件になりました。どう扱えばよいですか。
その数字は失敗ではなく、条件が噛み合っていないという情報です。動かせるのは採用人数、入社時期、選考の段数の3つです。どれも動かせないなら、今期中には成立しない前提で経営に共有してください。
採用計画は何か月ごとに見直すべきですか。
四半期ごとが現実的です。実績が3か月たまると通過率の分母が増え、期初の代用値を自社の数字に置き換えられます。加えて、退職の申し出があった時点で欠員見込みを更新し、募集開始月を引き直してください。
参考にした資料
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」(2025年8月26日公表)
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」(2025年10月24日発表)
- インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター『就職白書2026』(2026年2月20日公開)
本記事の数値および制度の記載は2026年8月時点の公表資料にもとづきます。最低賃金のように毎年改定される項目や、法令の改正が予定されている項目については、必ず最新の公表資料と所轄の労働局等でご確認ください。
採用実務のご相談は無料で承っています。自社のケースで判断に迷う点があれば、お気軽にお問い合わせください。