
社員紹介の制度を作ったものの、半年経っても紹介が数件しか出ていない。そんなとき、多くの会社でまず上がる議題は「報酬額をいくらに上げるか」です。ただ、金額を倍にしても件数は変わらなかった、という声も少なくありません。理由はたいてい、金額の手前にあります。
この記事では、紹介が止まる地点を「制度を思い出さない」「誰を紹介すればいいか浮かばない」「声をかけるのが怖い」の3つに分けたうえで、明日から着手できる打ち手を示します。30秒で話せる募集情報の作り方、関係を壊さない進め方、不採用時の連絡の順序、報奨金の決め方までを扱います。
報酬を上げても紹介が増えないのはなぜか
紹介という行動は、「思い出す」「誰かが浮かぶ」「声をかける」の3段階を通り、どこか1つで止まれば先には進みません。報酬額が効くのは3段階目の後押しだけで、手前で止まっていれば金額を積んでも件数は動きません。制度を作った翌月に数件出て、その後ゼロが続いているなら、止まっているのは1段階目です。
高額報酬が前提の手法でもありません。東京商工リサーチ「企業の『採用』に関するアンケート調査」(2026年6月公表・有効回答6,475社)では、リファラル採用(社員が知人を紹介する採用手法)を取り入れている企業は中小企業で48.3%、大企業で60.4%。報酬額は「報酬は支払っていない」が40.9%と最も多く、「1〜10万円未満」20.7%、「明確な規定はない」20.4%と続きます。
紹介できる社員の母数も押さえておきます。パーソル総合研究所が「働く10,000人の就業・成長定点調査」をもとに公表したレポートでは、勤務先で働くことを家族や友人に勧めたいと答えた正社員は38.6%でした。全社員が担い手になる前提で目標を置かないほうが、運用に無理が出ません。
止まっている地点は、その日のうちに確認できます。営業・現場・管理部門から5人を選び、「今うちは何の職種を募集していますか」「紹介したいとき誰に言えばいいですか」の2問を口頭で聞いてください。半分が答えられなければ、手を入れるのは報酬額ではありません。
| 紹介が止まる地点 | 社員側で起きていること | 先に手を打つこと |
|---|---|---|
| 思い出さない | 制度は知っているが、今募集中かを知らない | 募集職種の一覧を月1回、同じ形式で全社に流す |
| 誰を紹介するか浮かばない | 「いい人がいたら」としか言われていない | 任せる仕事と1年後の姿を職種ごとに1枚にする |
| 声をかけられない | 断られたとき関係が悪くなるのが怖い | 応募ではなく「話を聞く場」から始める |
| 二度目が出ない | 紹介した後、何の連絡も返ってこなかった | 返す情報と返さない情報の範囲を先に決める |
社員が説明できる募集情報を用意する
社員は採用担当ではありません。求人票のURLを渡しても、できるのは友人に転送することくらいです。必要なのは、自分の言葉で30秒話せる材料です。「うち今、見積作って納品まで見る人を募集してるんだけど」と言えるかどうかで、紹介が出るかが決まります。
職種ごとにA4半分の「紹介メモ」を作り、項目は次の5つに絞ります。多いと覚えられず、少ないと誤解が生まれます。
- 任せる仕事を3つ、動詞で書く(「顧客管理」ではなく「見積を作って送る」)
- 1日の流れ(始業時刻、忙しい時間帯、退勤の目安)
- 給与のレンジと、その幅が何で決まるか
- 今のチームの人数と年代の構成
- この仕事のきつい部分を1つ。隠さずに書く
最後の1項目を入れられるかが分かれ目です。入社前に聞いていた話と実際の差が小さいほど、早期の離職は起きにくいと考えられています。良い面も厳しい面も事前に伝える考え方は「採用ミスマッチの理由は『面接の嘘』?RJPで離職を防ぐ採用リデザイン」(詳しくはこちら)で扱います。
作ったら、その場で検証します。社員1人にメモを1分読ませ、伏せた状態で「どんな人を募集しているか」を説明してもらいます。止まった項目が、書き方の悪い項目です。3人続けて同じ項目で止まるなら書き直します。なお、求める人物像を数値に落とす方法は「採用ペルソナ設計を適性検査の数値に落とし込む」で扱います。
紹介する側の気まずさを減らす進め方
紹介をためらう理由で重いのは、報酬ではなく人間関係です。「誘っておいて落ちたら気まずい」「入社後に合わなかったら自分の責任になる」。これを制度側で軽くしない限り、金額の議論は空回りします。
効果が見込めるのは、最初の接点を選考にしないことです。まず「30分の情報交換」を設定します。履歴書は不要、その場で合否は出さない、と双方に先に伝えます。紹介者が「送り込んだ人」ではなく「話をつないだ人」になれば、気まずさは軽くなります。
もう一つは、紹介者に渡す情報の線引きです。曖昧だと紹介者が選考の内情を知る立場になり、双方が動きにくくなります。次の4点を紹介メモと同じ紙に書いて配ってください。
- 紹介者に伝えること:面談を実施したか、選考が続いているか、結果が出たか
- 紹介者に伝えないこと:面談での発言内容、評価の中身、提示した条件、辞退の理由
- 候補者に伝えること:紹介者に何が共有されるかを、初回の連絡時に必ず説明する
- 紹介者は選考の担当から外す:同じ部署でも面接官には入れない
面談で何を聞くかが決まっていないと、紹介者への説明もぶれます。当社が提供するTekiLens(適レンズ)は、性格特性の検査結果と職務要件の差から、面接で深掘りしたい質問案を提示します。紹介経由でも通常の応募でも同じ観点で聞ければ、関係に判断が引きずられません。
紹介で採用に至らなかったときの伝え方
制度が1回で止まる原因として多いのが、断ったあとの扱いです。設計していない会社では、1件目の不採用で紹介が途絶えます。逆に、断り方を整えておけば2件目が出てくる余地は残ります。
順序は固定してください。候補者本人に連絡する、同じ日のうちに紹介者に連絡する、紹介者には結果と謝意だけを伝える、の3ステップです。逆順にすると本人より先に紹介者が結果を知ることになり、候補者の信頼を損ないかねません。人事から直接連絡し、上長経由の伝言にはしません。
紹介者への連絡文は次の4点で足ります。理由を説明したくなりますが、評価の中身に触れるのは避けます。
- 結果が出たこと(採用に至らなかった、という事実のみ)
- 時間を使ってもらったことへの謝意
- 今回の判断が候補者本人の能力の否定ではないこと
- 次に募集が出たときは改めて声をかけたいこと
この4点は定型文にして保存します。担当者が代わっても、同じ順序と範囲で連絡を返せます。
報奨金は「いつ」「何に対して」払うかで決める
ここまでを整えたうえで、最後に金額の話をします。要点は総額ではなく、支払うタイミングを分けることです。入社時の一括支給だけでは、紹介という行動そのものに報いる機会がありません。
| 支払う時点 | 受け取る人 | 金額の考え方 |
|---|---|---|
| 面談を実施した時点 | 紹介者 | 少額。行動そのものへの謝礼とする |
| 入社した時点 | 紹介者 | 中心となる金額。同職種の採用単価を上限の目安に |
| 入社から6か月後 | 紹介者 | 分割の後半。定着を確認してから支給する |
| 入社した時点 | 候補者本人 | 支給しないか、入社後の手当として規程に定める |
総額の目安は、その職種を求人媒体や人材紹介で採用した場合の費用を超えないことです。上限が決まれば議論は短く済みます。前掲の調査でも、金額を定めている企業で最多は「1〜10万円未満」でした。採用費全体の配分は別記事で扱います。
制度化するときは、支給条件を賃金規程などに明記し、時期・金額・返還の条件(試用期間中に退職した場合の扱いなど)まで書き切ります。紹介への金銭の支払いは、職業安定法や労働基準法の規定との関係が問題になり得ます。適法かどうかは社内だけで判断せず、所轄の労働局や社会保険労務士などにご確認ください。
紹介経由の候補者は既存社員との関係があるぶん、面接では見る角度が偏りがちです。TekiLensの検査結果を面接前に共有しておくと、通常の応募と同じ土俵で確認事項を揃えられます。詳細は /business/ をご覧ください。
よくある質問
社員紹介に目標件数を設定してもよいですか。
全社で共有するのは有効ですが、個人の人事評価に紐づけるのは避けてください。評価に直結させると、条件に合わない相手にも声をかける動きが出ます。部門単位で行動量の目安を置く程度が現実的です。
紹介された人を断りにくいのですが、どうすればよいですか。
選考の基準を先に文書化し、紹介ルートも通常の応募と同じ基準で判断すると決めておくことです。基準を紹介メモと一緒に渡しておけば、断る場面でも「基準に沿った判断」として説明できます。
退職した元社員からの紹介も対象にできますか。
可能ですが、規程で対象者の範囲を明確に定義してください。在籍者と元社員で支給条件が変わるなら、その差も書きます。元社員から連絡先を受け取る際は、本人の同意を得たうえで共有してもらう運用が安全です。
パートやアルバイトの採用でも社員紹介は使えますか。
使えます。勤務地や時間帯が限定される職種ほど、身近な人からの紹介は成立しやすい面があります。紹介メモには時給とシフトの実態(週何日から可能か、繁忙期の残業の有無)を必ず書いてください。
紹介が特定の部署にばかり偏ります。問題でしょうか。
偏り自体は問題ではありません。むしろ、その部署の誰がどう説明しているかを聞き取る機会と捉えてください。うまく紹介が出ている人の言い回しを紹介メモに反映させると、他部署でも同じ説明ができます。
参考にした資料
- 東京商工リサーチ「『リファラル採用』 企業の半数に広がる 定着率はリファラルが新卒、転職エージェントを上回る」(2026年6月19日公表・企業の「採用」に関するアンケート調査)
- パーソル総合研究所「リファラル採用は人材不足の解決策になるのか―勤務先を推奨する意識から読み解く人事の打ち手」(2025年・「働く10,000人の就業・成長定点調査」に基づく)
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