
不採用にした方の応募書類が、キャビネットや共有フォルダに何年分も残っていないでしょうか。捨てる判断をする人が決まっていないと、書類は増える一方です。そして増えるほど、誰も手をつけられなくなります。
この記事では、応募書類を「とりあえず保管」する状態から抜け出すための手順を扱います。保管する理由の書き出し方、期間と起算日の決め方、廃棄のやり方と記録の残し方、そして応募者から返却を求められたときの返答まで、明日の採用会議でそのまま決められる形で整理します。
「とりあえず保管」が抱えるリスク
応募書類を持ち続けること自体が、ただちに法令違反になるわけではありません。問題になるのは、持っている理由を誰も説明できない状態です。理由がないまま置かれた書類は、量だけが増えていきます。
理由のない保管には、相応の負担がついてきます。漏えいや紛失が起きたとき、影響を受ける人数がそのまま大きくなります。応募者から問い合わせが来ても、紙のファイル・共有フォルダ・採用管理システム・担当者のメール添付に分散していて、どこに何があるのかすぐには探せません。結果として「何のために持っているのか」を社内でも説明できず、廃棄の判断だけが先送りされ続けます。
求人を出す企業は、職業安定法にもとづく指針(平成11年労働省告示第141号)の対象でもあります。この指針では、個人情報の適正な管理として「収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置」を講じることが挙げられています。
最初の一歩は、期間を決めることではありません。まず10分とって、応募書類の置き場所を残らず書き出してください。紙とデータの両方に加えて、面接メモや選考で使った検査結果まで含めます。この一覧がないまま期間だけ決めても、必ず消し漏れが残ります。
なお、選考時の見送り理由を1行で残す運用は、書類選考を1件3分で終わらせる読み方の順番で扱っています。
保管する理由から期間を決める
個人情報保護委員会は、個人情報保護法には保存期間や廃棄時期の規定はないとしたうえで、個人データを利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならないという努力義務(法第22条)を示しています。つまり、何か月と書かれた正解はどこにもなく、期間は自社で決めるしかありません。
決め方には順番があります。何か月持つかではなく、何のために持つのかを先に書きます。次に、その理由が消える時点を特定し、最後に期間の起算日を決めます。
この3段階で抜けやすいのが起算日です。起算日が曖昧なままだと、現場は結局捨てられません。不採用を通知した日か、選考が全部終わった日かを、書類の種類ごとに決めておきます。
| 書類・データ | 保管する理由の例 | 理由が消える時点 | 起算日の例 |
|---|---|---|---|
| 履歴書・職務経歴書 | 選考結果への問い合わせ対応 | 問い合わせが来なくなる時期 | 不採用を通知した日 |
| 面接メモ・評価シート | 選考手続きの説明責任 | 同上 | 不採用を通知した日 |
| 選考で使った検査結果 | 選考時の参考情報 | 選考が終わった時点 | 選考終了日 |
| 応募経路・媒体の記録 | 採用活動の振り返り | 集計を終えた時点 | 集計を終えた日 |
| 内定辞退者の書類 | 再度打診する可能性 | 自社で決めた時点 | 辞退の連絡を受けた日 |
表の「理由」は、応募者に伝えた利用目的の範囲に収まっている必要があります。募集要項に「選考のため」としか書いていないのに、数年後の再募集の案内に使うことは想定されていません。使い道を広げたいなら、書類を溜めるのではなく募集時の記載を見直すほうが先です。
選考の過程で取得した検査結果も、応募者の個人データです。当社のTekiLens(適レンズ)を含め、検査結果をシステム上で保持するサービスを使っている場合は、データの保持期間と削除の手順を提供元に確認したうえで期間を決めてください。なお、採用した方の書類は労働関係の法令で保存が求められるものがあり扱いが変わるため、本記事では応募者の書類に絞ります。
廃棄の方法と、廃棄した記録
廃棄は「捨てた」で終わりではありません。個人情報保護委員会は、個人データを消去する際は復元不可能な手段で消去する必要があり、消去業務を外部に委託する場合は委託先に対する必要かつ適切な監督を行う必要があるとしています。紙はシュレッダーか溶解処理に回します。データは、ファイルをゴミ箱に入れただけでは残ります。
データの廃棄は、次の順で確認すると漏れにくくなります。
- 共有フォルダにある原本を削除する
- クラウドストレージや採用管理システムのゴミ箱を空にする
- 応募書類が添付されたメールを、送信済みフォルダも含めて削除する
- 担当者が個人のPCにダウンロードした分を消す
- バックアップから消えるまでの期間を、情報システム担当に確認しておく
そのうえで、廃棄したこと自体の記録を1行残します。日付/対象(誰の何を)/件数/方法/担当者。表計算ソフト1枚で足りますが、これがないと「その書類はもう保管していません」と答える根拠がありません。外部に委託した場合は、業者が発行する処理証明書を同じ場所に保管します。
運用は、都度判断をやめると続きます。たとえば毎月第1営業日を廃棄日と決め、期間を過ぎた分だけを処理する。日付が決まっていれば、担当者が代わっても回ります。
応募者から返却を求められたとき
不採用の通知を出した後に、書類を返してほしいと言われることがあります。個人情報保護委員会は、個人情報保護法には本人の請求による保有個人データの削除などの規定はあるものの、受け取った書類を返還する義務は規定されていないとしています。つまり、法律上は返却しなければならないわけではありません。
ただし、応募者にとっては自分の経歴を預けた相手からの返答です。断り方が事務的すぎると印象が残ります。面接での所感や社内のメモが書き込まれた書類は、そのまま返せないことも多いはずです。返却しないと決めているなら、返却の対応はしていないこと、代わりにいつまでに責任をもって廃棄するか、その廃棄の方法の3点をセットで伝えます。
文面はこの程度で十分です。「ご提出いただいた書類は返却の対応をいたしかねますが、当社の規定により◯月◯日までに、復元できない方法で廃棄いたします」。返答を用意しておけば、担当者が個別に悩まずに済みます。
一方で、本人から利用停止や消去を請求された場合は、返却の話とは別の手続きです。どの請求にどこまで応じる義務があるかは、取得の経緯や利用目的によって判断が分かれます。自社で結論を出す前に、個人情報保護委員会の公表資料を確認し、必要に応じて弁護士や所轄官庁に相談してください。
社内ルールを1枚にまとめる
ここまでを1枚にまとめると、そのまま社内ルールになります。決めることは多くありません。次の5項目を、次の採用会議で埋めてしまうのが早道です。
- 対象:何を応募書類として扱うか(紙・データ・検査結果・面接メモ)
- 保管する理由と期間、そして起算日
- 保管場所と、アクセスできる人の範囲
- 廃棄の方法と、実施するタイミング
- 返却を求められたときの返答と、対応する担当者
決めたら、募集要項や応募フォームに一行入れます。「ご提出いただいた書類は返却せず、選考終了後◯か月以内に廃棄します」。先に伝えておけば、返却の問い合わせそのものが減ります。見直しは年1回で十分ですが、採用管理システムを入れ替えたときや応募フォームの項目を増やしたときは、その場で対象を追加してください。
なお、選考でどの情報を取得するかという入口の設計は、この記事では扱いません。中小企業の採用全体の進め方については中小企業の採用・適性検査ガイドで扱っています。
面接の場で尋ねてはいけない事項とその言い換えは、面接で聞いてはいけない質問の一覧と言い換え例で扱っています。
個人情報保護法の解釈は、事案ごとの事情によって結論が変わります。この記事は一般的な考え方の整理です。自社の運用が適切かどうかの最終判断は、個人情報保護委員会の公表資料を確認したうえで、弁護士や所轄官庁にご確認ください。
よくある質問
すでに何年分も溜まっている書類は、どう処理すればよいですか。
まず年度や選考時期ごとに箱を分け、新しいルールの期間を過ぎているものから順に廃棄します。全部を一度に処理しようとすると止まります。初回は「3年より前の分」など線を引いて着手してください。処理した分は、日付と件数だけでも記録に残してください。
部署やグループ会社と応募書類を共有しています。廃棄はどう揃えますか。
共有した時点で、同じ書類が複数の場所に存在することになります。誰が原本を持ち、誰がコピーを持っているかを先に決め、廃棄の連絡を出す担当者を1人に絞ってください。共有先の廃棄が確認できるまでは、記録上「廃棄済み」としないほうが安全です。
不採用にした方に、次の募集を案内してもよいですか。
応募時に伝えた利用目的の範囲に収まっているかどうかが出発点です。「選考のため」としか案内していない場合、後日の募集案内は想定外の利用になり得ます。今後も案内したいのであれば、募集時点の記載を見直すか、その場で本人の意向を確認しておくと行き違いが起きにくくなります。
廃棄を外部の業者に任せても問題ありませんか。
委託自体は一般的に行われていますが、委託先に対する必要かつ適切な監督が求められます。回収から処理までの流れ、復元できない方法かどうか、処理証明書が出るかを契約前に確認してください。証明書は廃棄記録と同じ場所に保管しておきます。
選考で使った検査結果のデータは、サービス提供元にも残りますか。
サービスごとに保持の仕組みが異なるため、契約時に確認が必要です。TekiLensを含め、検査結果を扱うサービスを選ぶ際は、データの保持期間と削除の依頼方法、退会時の扱いを事前に確認しておくと、社内の保管ルールと整合させやすくなります。
参考にした資料
- 個人情報保護委員会「取得した個人情報は、いつ廃棄しなければなりませんか。」(「個人情報保護法」に関するQ&A Q5-2)
- 個人情報保護委員会「不採用にした応募者から提出された履歴書の返却を求められた場合、返却に応じなければならないか」(「個人情報保護法」に関するQ&A Q9-20)
- 個人情報保護委員会「データの消去に関する注意喚起」
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(平成28年11月、令和8年6月一部改正)
- 厚生労働省「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年11月17日労働省告示第141号)
採用実務のご相談は無料で承っています。自社のケースで判断に迷う点があれば、お気軽にお問い合わせください。