エースを管理職にする前に、本人と話しておくこと

エースを管理職にする前に、本人と話しておくこと
エースを管理職にする前に、本人と話しておくこと

今年いちばん数字を作った人を、来期から課長にする。中小企業では自然に出てくる決め方です。本人も周囲も納得しやすく、他に候補が思いつかないことも多いはずです。ただ、半年ほど経った頃に、本人が疲れ切っていたり、チーム全体の数字が落ちていたりする。そんな例に心当たりはないでしょうか。

この記事では、成績のよい社員を管理職に登用する前に、本人と何を話しておくべきかを整理します。役職の職務を言葉にする方法、行動の事実から確認する観点、条件を開示したうえでの意向確認、見送るときの伝え方まで、次の会議で使える形で扱います。

目次

成果を出す人と、任せられる人は同じではない

現場で数字を作ってきた人が、真っ先に候補に挙がります。その人がいちばん信頼されているからです。ただし、自分で成果を出すことと、他人を通じて成果を出すことは、求められる行動が違います。前者が得意だから後者も得意だ、とは限りません。

背景には、教える側の人手不足もあります。厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとした事業所は79.9%でした。その問題点の内訳では「指導する人材が不足している」が59.5%で最も高くなっています。指導役が足りない現場ほど、実績のある人をそのまま押し上げる力が働きます。

一方で、本人の側が役職を望んでいるとは限りません。パーソル総合研究所が全国の有職者1万人を対象に行った「働く10,000人の就業・成長定点調査」では、現在の会社で管理職になりたいと答えた人は2026年で15.7%でした。会社が当然と考える昇進が、本人にとっては当然ではないという前提から始める必要があります。

会議の前に、紙を一枚用意してください。「この人が管理職になったら、いま担っている数字と業務は誰が引き継ぐのか」を書き出します。引き継ぎ先が空欄のまま登用を決めると、本人はプレイヤーの仕事を抱えたまま管理業務を足すことになります。空欄が埋まらないなら、登用の話ではなく人員計画の話です。

管理職の職務が求めることを、先に言葉にする

候補者を並べる前にやることがあります。その役職の職務を、文章にすることです。多くの会社で「課長」が指す仕事は、暗黙のまま引き継がれています。中身が定義されていない職務に人を当てはめるから、判断が人柄の印象に流れます。

観点プレイヤーの職務管理職の職務
成果の出し方自分が動いて出す他人が動いた結果として出る
主な時間の使い方担当業務の遂行情報の整理と対話
判断すること自分の案件の優先順位誰に何を任せるか
失敗の現れ方その月の数字に出る退職や品質の低下として遅れて出る
成果が見える時期月次・四半期半年から1年
プレイヤーと管理職で入れ替わるもの

表の右側は、左側の延長ではありません。別の仕事だと考えたほうが実態に合います。まずは直属の上司に「この役職に就いた人が最初の半年で必ず直面すること」を5行で書いてもらってください。5行が埋まらないなら、職務が定義されていない証拠です。候補者を議論する前に、そちらを埋めます。

職務を書くときは、権限もあわせて書きます。厚生労働省の資料では、労働基準法上の「管理監督者」に当たるかどうかは役職名ではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断するとされています。判断要素には、部下の人事考課や採用への関与、時間外労働を命じる権限が挙げられています。こうした権限がないまま肩書だけを渡すのは、本人を板挟みにし、労務管理の面でも問題になり得ます。

決裁の範囲が決まらないまま役割だけ渡したときに起きることは、中途入社者が成果を出せないとき、まず見る3か所の権限の項でも扱っています。

TekiLens(適レンズ)では、職種ごとに重視する傾向を「職務要件」として定義しています。人を見る前に職務の側を言葉にする考え方は、登用の判断でも同じように使えます。

行動の事実で確認する観点

職務が言葉になったら、候補者を見ます。ここで避けたいのは「リーダーシップがあるか」という聞き方です。答えは印象になり、印象は立場によって割れます。聞くべきは、直近1年で実際に何が起きたかです。管理職の職務は他人が絡む場面に現れます。次の観点は、具体的な出来事として確認できます。

  • 手柄の扱い:成果が出た場面で、誰の貢献をどう説明したか
  • 悪い情報の扱い:問題が起きたとき、どれだけ早く、誰にどこまで伝えたか
  • 他人の速度への対応:時間のかかる同僚に、代わりにやったのか、やり方を渡したのか
  • 意見が合わない相手との仕事:対立した場面で、どこまで話を前に進められたか
  • 引き受けの線引き:抱えきれない依頼を断り、代案を出したことがあるか

質問は「直近12か月で」「具体的にいつ」「誰が何をしたか」「その後どうなったか」の順に聞きます。一般論で答えが返ってくる観点は、事実がまだ集まっていない観点です。向いていないと結論づけず、確認できていないという扱いにします。

同じ出来事を、本人、直属の上司、隣の部署の1名から聞くと、人物評ではなく事実が集まります。目的は点数をつけることではなく、面談で確かめるべきことを絞ることです。

なお、検査データの数値を人物像へ落とし込む手順については、採用ペルソナ設計の記事で扱っています。

意向は、条件を開示してから聞く

「課長、やってみないか」と先に聞いてしまう場面があります。条件が分からないまま返事を求められると、本人は断りにくくなります。順番を逆にして、条件を全部出してから意向を聞きます。

  1. 月々の支給額がいくら変わるか。減る可能性があるならその額も
  2. 時間外手当や深夜手当の扱いがどう変わるか
  3. 何を評価され、いつ評価されるか
  4. 任期や役割の見直し時期があるか
  5. 合わなかったとき、元の職務に戻る道があるか

手当の説明は特に丁寧にしてください。厚生労働省の資料では、労働基準法第41条により管理監督者には労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されない一方、深夜業の割増賃金と年次有給休暇に特例はないとされています。規定が適用されないからといって、何時間働かせてもよいわけでもありません。役職手当が付いても実質の手取りが下がる設計になっていないか、金額を出して確認します。

意向は「やってみたいか」ではなく、次の2つで聞きます。「この職務で一番きついのはどこだと思うか」「何があれば引き受けられるか」。前者からは本人の理解度が分かり、後者からは条件が出てきます。

役職に就いた後の「聞いていた話と違う」は、採用の場面で起きるズレと似ています。事前に現実を伝える考え方は、RJPを扱った記事が参考になります。

見送るとき、本人が望まないときの伝え方

伝え方の原則は一つです。人格ではなく、職務との関係で話します。「君はマネジメントに向いていない」には根拠がなく、言われた側は取り返しがつかないと受け取ります。「この職務が求めるのはこの3つで、いま出来事として確認できたのは2つ」と言えば、話は次に続きます。

言い方を4つ決めておくと、面談は荒れにくくなります。見送るときは「まだ早い」ではなく「この職務が求める◯◯について、直近1年で確認できる出来事がなかった」。本人が断ったときは「なぜやる気がないのか」ではなく「いま引き受けられない条件は何か」。次の機会の話は「そのうちまた声をかける」ではなく「次に話すのは◯月。それまでにこの経験を用意する」。処遇の話では「昇進しないと給与は上がらない」ではなく「専門職として上がる道はここまである」と伝えます。

本人が望まない場合は、理由を「今は」で区切って聞きます。育児や介護、体調など、時期の問題であることが少なくありません。断られた事実と理由、次に話す時期を記録に残せば、来年また一から説明せずに済みます。

登用しないという判断は、その人の価値を否定するものではありません。同じ特性でも、任される仕事や周囲の顔ぶれが変われば、現れ方は変わります。TekiLensも、特性は良し悪しではなく傾向として扱います(受検データは採用選考の目的にのみ利用します)。次の会議でできることを一つだけ挙げるなら、候補者の名前を出す前に、その役職の職務を5行書くことです。順番を変えるだけで、議論は人柄の印象から仕事の中身へ移ります。

よくある質問

候補者が1人しかいない場合は、どう判断すればよいですか。

比較する相手がいなくても、職務が求めることと本人の行動の事実を突き合わせる作業は同じです。足りない部分がはっきりすれば、権限の一部を先に渡す、担当範囲を狭めて始めるなど、職務の側を調整できます。

登用を打診する面談には、誰が同席するのがよいですか。

直属の上司と、決裁権を持つ人の2名が基本です。条件に関する質問はその場で出ます。金額や任期を即答できる人がいないと、本人は不安を抱えたまま持ち帰ります。

本人が「やります」と即答した場合も、条件の説明は必要ですか。

必要です。即答は意欲の表れであると同時に、断りにくさの表れでもあります。支給額の変化や評価のされ方を紙で渡し、数日置いてもう一度意思を確認すると、後のすれ違いを減らせます。

登用を見送ったことを、他の社員に説明すべきでしょうか。

個別の判断理由を共有する必要はありません。ただし、その役職が何を求めているのかは全員に開示しておくとよいでしょう。次に手を挙げる人が出てきやすくなります。

管理職を任せてみて、合わなければ元に戻す運用は問題ないでしょうか。

期間と見直しの時期を事前に決め、本人と合意していれば選択肢になります。ただし降格は賃金や就業規則に関わるため、実施前に自社の規程を確認し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談してください。

参考にした資料

TekiLens(適レンズ)の機能・料金・活用イメージは、サービス資料で詳しくご覧いただけます。採用に関するお悩みは、無料相談で承っています。

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